「政策評価のための因果関係の見つけ方 ランダム化比較試験入門」

「政策評価のための因果関係の見つけ方 ランダム化比較試験入門」を読んだ。政策評価というよりは因果推論の勉強の一環で読んだ。エビデンスに基づいた政策決定(EBPM)において、日本は後進国であると思うが、そのEBPMを進めるためのランダム化比較試験入門(RCT)の簡易的なレビューとして、どちらかというと政策評価に興味あるひとにRCTを紹介する本になっている。

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帯でうまく隠してあるけど、裏表紙にデカデカと近頃何かと話題のエルゼビアの名前がある(購入してから気づいた)。レビュー論文っぽいやつを輪講ののち、翻訳し40ページ近い解説をつけて本にしたらしい。元が論文であって、教科書ではないことが重要で、薄さと安さの割に比較的広範な話題をカバーしているが、記述の丁寧さはその分譲歩している書き方だと思う。ただ、ついている解説記事が結構丁寧に書かれているので、エッセンスを捉えることは容易だと思う。この本だけで勉強が完結できるとは考えず、気になった各論については都度各自で他の文献等で調べる、という使い方をお勧めしたい。

 

因果推論の教科書には不足しがちな実際に実験を行う際に留意する点(サンプルサイズや検定力の見積もり、他国でのRCTによる教育政策決定事例の紹介、完全にRCTできないケースでどのような手法が取られてきたかという先行研究の紹介など)が書かれていて、特に他国での研究の例では政策評価に主眼を置いていない読者の私でも楽しむことができた。

 

最初に述べたようにEBPMが主眼であり、これだけでRCTについては万事OKかというと、おそらくそうではないだろう。ただ、RCTにおいて何が重要か俯瞰図を得るためには十分であり、かつ実際にRCTを試行する際の留意点が得られるという点で優れたものだと思う。政策決定以外の分野の人にとっても(全く興味がない方なら苦痛かと思うが)RCTの理解についての良い橋頭堡になっている。付き合い方を理解した上で読むにはとても良い本だと思う。